霧の木曜日

コケシの1人ゴトhttp://rinnnedou.cart.fc2.com/鉱物と変態的日常のゴミ箱と化す予定 https://gagagaruisu.thebase.in

かくれんぼしましょ

「かくれんぼしましょ」

小さな女の子が、私を見上げ

そう言った

私は、彼女の目を見たとき

そこに何もないことに気が付いた

全て

 

いつものように、ソファーにねこっころがていると

チャイムのような、呼び出し音が

玄関から響く

助手は、先日給料未払いやら

冷蔵庫強奪やらで、勝手に、解雇されたが

果たして、忘れ物でもあったのだろうか

ぼくは、腰痛持ちの腰を何とか上げると

スリッパを履いて

ソファーからたった

鍵の開いている玄関からやってきたのは

老婆に手を、ひきつられるようにしながら

歩いてくる女性であり

目が悪いのか

手術したように、眼の部分に包帯がぐるりと何周か巻かれている

どうもいやな雰囲気だと

思う

もしかしたら、傷害事件の犯人探しだとか

お門違いに、報復を依頼しにきた可能性があるが

何でも屋でも無いので、そこら変は無理だ

お茶をどうしようかと思いながら

彼等に挨拶する

「どうも」

ここは、古い貸しアパートと古いテナントが、一つのビルに入った古びた街の汚い路地の

まともな民家の裏だ

彼等は、会釈すると

「どうも、突然おじゃまいたしましてすいません

なんでも、妙なこともやってくれるとか」

その言葉を聞いて

ぼくは、頭が痛くなる思いがした

確かに、過去にそんな事件を、解決した人を手伝ったことがあるが

どちらにしても、専門外だし

「ちなみに、どちら様から」

僕は、席を勧めて、素早くお茶の用意をした

いつかは、わからないが、助手がいつも用意しておいたおちゃっぱを、缶から出す

さいわい水は昨日入れておいたので大丈夫だろう

彼女らは、自分がいつも寝ているソファーの向かいの二つに分かれた社長椅子をファンシーにしたような

クリームグリーンとレモンの皮のようなもきゅもきゅしたしつかんの椅子に座る

老婆は、娘なのだろうか

彼女を椅子に座らせた

結局彼らの前に行くまで会話は、無く

いざ話し始めるにも

「で」とこちらから、切り返す必用があった

 

「神田林町の五里末たばこ屋のおばあちゃんが」

そこで僕は、そのしらない名前に首を傾げたが

たばこ屋という事に加え

女性だ

噂話には、精通していておかしくはない

「そうですか」

しったかぶって僕は、仕事の内容を聞き出すことにした

「それで、一体どんなご用件でしょうか」

ここに来るからには用件があるのが当たり前である

少なくとも、差し入れがないことから知り合いの生存補助ではないだろう

「はい」

そこで彼女は、驚かないでくださいと、小さな声でいって

娘らしいとしの離れた女性に、包帯を取るように促す

目をつむっていたようで

ようやくしゅるしゅるとほどけた包帯の中から

ようやく出てきた彼女の目は閉じていた

「いきます」

老婆がそう言う

彼女は、そのまま、眼をゆっくりと開いた

そこには、空洞が、両目にあり

光の角度か、奥まで光が行かないらしく

いやに暗い

「もういいですよ」

瞬きを我慢するような彼女を制して

そう言うと彼女は今度は包帯を付けず

眼を閉じたまま背筋を伸ばし座った体勢を取った

彼女の隣の老婆が、状況を説明するらしい

「実は、一週間ほど前のお昼過ぎです

住宅地の路上で、彼女の娘の目が、何者かにえぐり取られたんです」

そこまで聞いて、僕は不審に思う

いくら何でも一周間で、血や何や等が、ふさがることはないだろう

なまじ、そうだったとしても、あまり傷のような物が先ほど見えなかったが、医学の知識の偏っている自分などには、断言できないだろう

「それで、なぜこちらに、警察が動いているのではないでしょうか

ここの管轄なら・・・」

言葉を老婆が遮った

「其れが、小さな女の子だったらしく

しかも、その彼女の両目がなくて

其れを見た瞬間、目の前が真っ暗になって

何ふんかして救急車で運ばれることに

それで、

聞き込みなどをしていただいてるようですが

とても真剣とは言えません」

えらく断言したなと思ったが

内容もないようだが

最近ちまたで起こっている老人ホーム誘拐事件

の方が、大規模でなおかつ

金持ちが入るような高級なところだ

人員の割かれ方も違うのだろう

うむ、たしかに、よくわからない事件だ

犯人は、なぜ子供を使ったんだ

其れが、相手を油断させるためだったとしても

それじゃあ、其れが、どこぞこの国では、日常茶飯事で行われている臓器の略奪だったとしても

真っ昼間に行う事じゃないだろう

それじゃあ、奇妙な思考の持ち主だとしたら

最近じゃ、ネットを探れば、死体の画像は、もちろんの事、絵の媒体でもそう言う趣向のことが、平然と載っているそうではないか

眼球を、ホルマリン漬けにでもしてコレクションしているとも限らない

そうなると、自分出る幕は、いよいよ無いんじゃないかと思える

しかし、僕のあきらめにも似た表情でも読みとったのか

無表情にしても、不意にされることを断るためか

彼女の母親が、必死に話をする

「お願いです、彼女の眼球を、未来を取った犯人を捕まえて罪を償わさせてください」

彼女は娘の手を握ると

額に押し当てるように、涙を流した

こう言うことに、私情を入れると非常に危険だが

仕方がない

「一応、知り合いに、そう言う関連が得意かもしれない人が居ますんで、今日は、見積もりとかせず

依頼を受けるかどうかを聞くということで、終わりにさせていただいてもよろしいですか」

彼女は顔を上げると

「はい」とうなずいた

娘の方は、あまり反応もなく

まるで、がらんどうのようであった

 

「あのーもしもし」

彼女らが帰る時

明日には連絡すると言づてを言い

その日は終了する

机の上には

一時間ほど探してようやく出てきた

薄く紫がかった名刺が一枚置かれていた

数秒掛かって

ようやく出た声は、ひどく怠かった

「はい、霊能力撃退事務所笹木で、ございます」

ゆってることもあやしいが

その声が、いさかか若いのが言葉とは裏腹である

こう言うのはもう少し、年輩の声の方が

霊能力者らしいと言うのは

占い師や番組の先行観念のせいだろうか

「あの、依然渋谷痴漢騒ぎで、お世話になりました

黒沢ともうします」

「あ・ああ、あのときは、どうもどうも、いやー助かりましたよ、私のパンティーまで食い込ませたんだから、殺しそうになりました」

なかなか、きつい言動である

「いえ、あなたが、殴っていただいたおかげで、

こちらとしましては、あのときの犯人逮捕に、こぎつけました、申し訳ありません、被害が出る前に捕まえられず」

彼女は、そんなことはどうでも良いようで

「いえいえ、私も、三十人連続腹切り電車事件を、止められた瞬間に立ち会えて光栄です」

三十人連続間委員電車殺人事件とは

狭い満員電車の中

細い刃物で、若い女性の腹をかっさばき

子宮を縦に割ると言う

医学的知識とスリのような手管が必用

実に、異様な事件だったが

結局犯人は、どこにでも居る自営業の豆腐屋のおやじだった

犯行の動機は、ネットで、女性を破壊する物を見て

実際にやったらどうなるかを、見てみたかった

車内での犯行は、満員電車がうざかったのと

さすがに、車内で、行為を行うのは難しいからと

犯行は、東京市内で、たった三日の内に行われ

一日目に五人

二日目に十人

そして最後が十四人

彼女もわずかに傷は負ったものの皮の内側まで切られてはいない

しかし、事件名は、三十人となっていた

彼女が、乗り合わせていた電車は、東京市内ではなく

警備の人員が少なかったせいと

新人の僕のような人間が

邪魔だと一応の対応として乗り合わせていて

彼女にけがを負わせたが逮捕に至った

彼女とは、そのまま別れたが

後に、先輩刑事につれられて

彼女の元へ訪れたときには驚いたものだ

まさか、本当に、そう言うたぐいの力があるとは

事件に関わられても正直、実感がわかないと言うのが

本当のところだった

たとえ、事件が解決しても